「2022年度から【歴史総合】が新しく高校の必修科目として設置されるぞ!」ってこの前書きました
関連:新課程の『歴史総合』ってどんなの?教育改革で誕生する科目について紹介する!
【歴史総合】とは日本から見た世界、世界史から見た日本を知れる機会が与えられる優れた科目。
「日本史だけ!」「世界史だけ!」にならず、地球市民としての意識を醸成する画期的なものです
この背景には地球単位のグローバル化が大きく影響があり、ヒト・モノ・カネ・情報が地球単位で共有されます
つまり地球単位でものごとを考え・取り組んでいこうって流れの現れです
そんな中【グローバルヒストリー】という呼び方の歴史も近年新たに誕生しました
本記事ではこの【グローバルヒストリー】の概要をお伝えします
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- 「グローバルヒストリー」とはざっくり?
- 「ワールドヒストリー」」との違いは?
- 背景①:マルクス主義的歴史観のあらわれ?
- 背景②:ウォーラーステインによる「世界システム論」の提唱
- 「グローバルヒストリー」が見えてきた
- でも、今の高校世界史はカオス
- グローバルヒストリーとワールドヒストリーの二刀流を
「グローバルヒストリー」とはざっくり?
歴史学の新潮流として生まれた「グローバルヒストリー」に聞き馴染みない人は多いのではないでしょうか
学問上、きちんと決まった定義が存在するわけではなく、現在進行形でそのコンセプトから意義まで構築の真っ只中にあります
東京大学をはじめとする歴史家軍団によって「グローバルヒストリー」の研究が進められていて、現段階で確立してる定義はこんなです
グローバルヒストリーとは、地球的規模での世界の諸地域や各人間集団の相互連関を通じて、新たな世界史を構築しようとする試みであり、世界中の学界で最も注目を浴びている歴史のとらえ方である。
引用:グローバルヒストリーが照射する新たな舞台
「ファッ?!地球規模?!人間集団の相互連関?!」
と困惑してしまうかもしれませんので、少しずつ噛み砕いていきます
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「ワールドヒストリー」」との違いは?
世界史の英訳といえば「ワールド・ヒストリー」を思い浮かぶかもしれまんが、「世界の歴史」のなかの「ワールド」は、国(=国民国家)や地域単位の集まりを意味します
ひろ〜いカテゴリーでは【東洋史】と【西洋史】があり、さらに細分化するとアジア史やヨーロッパ史、そして中国史、イギリス史、フランス史などがあるわけですが、このワールド・ヒストリーは【縦の歴史】を重視してます
【縦の歴史】を意識するあまり、「世界とは言ったものの国・地域単位の寄せ集めの歴史にしかすぎないよな?!」
って指摘が「世界史」にされてきました
背景①:マルクス主義的歴史観のあらわれ?
現行の「世界史」が【縦の歴史】になったのも、マルクス主義的歴史観のあらわれであるとされてます
19世紀に一斉を風靡した経済学の巨人マルクスです。実は人類の歴史についても強大な影響を残しました
マルクスは人類の歴史を『階級闘争の歴史』とし、共産主義社会へと向かう人類の歴史的法則を見出しました
出典: グローバル・ヒストリーとは何か
上記の図の階級ピラミッドを見るとわかるように、
- 古代ギリシャ・ローマ時代:『下部構造』=奴隷、『上部構造』=大土地所有者
- 中世ヨーロッパ=『下部構造』=農奴、『上部構造』=貴族、荘園の持ち主
- 近代=『下部構造』=賃金労働者、『上部構造』=資本家
の構造があるとし、技術進歩を経た生産手段に基づいて時代区分しました(こんなの唱えられるって頭超キレッキレです)
そして、偉大な業績を残したマルクスのこの理論(国の発展のプロセス)が他の国にも当てはめられる傾向もうまれ、世界史の基本法則とする動きがうまれました
でも、マルクスはドイツ生まれで研究対象は主にヨーロッパ。「他の国に当てはめるなんて無理ゲーやろ!」って指摘も同時にあったんですね
研究が進むと、この理論はヨーロッパへの適用も困難であると共通の理解となり、あくまでも国・地域単位の発展理論=【縦の歴史】にしかすぎなくなりました
背景②:ウォーラーステインによる「世界システム論」の提唱
マルクス主義的な歴史観の限界を受け、「もっとひろ〜い視点で世界の歴史を考えようや!」という意見がでてきました
『文明圏』で世界史を考えるチャレンジがはじまり、古代オリエント・古代地中海文明・古代エジプト文明・ヨーロッパ文明など、より一層大きな枠組みでとらえられていきます
が。「え?これも国・地域を広げただけじゃねww」って指摘もやっぱりでてきた・・
(あー言えばこう言うはアカデミック世界あるあるですからね〜〜)
そこで20世紀にあのウォーラーステインの登場しまして、「近代世界システム」が提唱されました
「近代世界システム」とは?
世界システムとは、複数の文化体(帝国、都市国家、民族など)を含む広大な領域に展開する分業体制であり、周辺の経済的余剰を中心に移送する為の史的システムである
別名『巨視的歴史理論』と呼ばれ、 中核の経済的に発展したヨーロッパが、周辺の経済的に遅れをとるアフリカや南米を従属させる関係のことを一般的に意味します
出典: グローバル・ヒストリーとは何か
「近代システム」の経済を過度に重視してる点や、単一のシステムが歴史観を限定づけてる点、そしてヨーロッパ中心的である点が批判されてきましたが
「世界史を体系的にとらえる大きな可能性を提供したよな」と賞賛され、近代よりも前の時代に同じ手法で研究されるようになりました!
『地中海ネットワーク』や『インド洋ネットワーク』の海域ネットワークをはじめとする、「ネットワーク論」がうまれ、近代以降の「システム論」と並んで、近代以前の世界史の巨視的な捉え方が「ネットワーク論」と呼ばれるようになります
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「グローバルヒストリー」が見えてきた
マルクス主義的歴史観を乗り越え、ウォーラーステインの「近代システム論」が提唱されたものの、さらなる批判や指摘がでてきました
でもこうした中で「ネットワーク論」と「システム論」が折衷され、「グローバル・ヒストリー」という新たな歴史学の分野が成立したのです、見事!
巨視的な視座は変わらず、時代・地域横断的に捉えようとするもので、世界の諸地域や各人間集団の相互連関の大切さを改めて感じれられます
もちろん、グローバルヒストリーは歴史の全てではなく、地域の特殊性(皇帝の内政や外政、建築、美術など)や個々の人間の業績は、これまでの【縦の歴史(ワールドヒストリー)】の中での具体的な事例として歴史の重要なコンテンツであることには変わらない!
「グローバルヒストリー」=マクロ・世界史
「ワールドヒストリー」=ミクロ・世界史
こんな構図がちらっと脳裏をよぎりました
時代地域横断の巨視的(マクロ)な視座からの歴史研究。これがグローバルヒストリーの差別的な存在意義でしょう
でも、今の高校世界史はカオス
高校世界史の教科書において、「近代になって世界の一体化を推進した諸力(近代工業力や科学技術)は地域の格差を強め、支配・従属関係をつくり出し」という、「グローバルヒストリー」の中で大切な「ネットワーク論」の記述もあります
一方で、個々の人物や地域に絞った「ワールドヒストリー」の側面もまだまだ残っており「グローバルヒストリー」と「ワールドヒストリー」双方の記述が混在してるのが、現行の高校世界史の教科書の実態です
グローバルヒストリーとワールドヒストリーの二刀流を
とはいえ、マクロからミクロ、ミクロからマクロな視点の切り替え力を養えるので、2種の歴史観が混在してるのは良い意味で捉えてもいいのかなと思います
具体的な事象から、普遍的な歴史の法則を見い出したり、すでにある歴史の法則を具体的な事象で確認したりするのは歴史の醍醐味ですからね
(イブン・ハルドゥーンとかすごいよ!関連:アラブの大歴史家「イブン・ハルドゥーン」って頭キレッキレ!歴史を知る目的を彼は教えてくれた!)
加速度的にグローバル化が進んで、とうとう地球単位で地球人のひとりとして考えなきゃならず、現代のグローバリゼーションの起源を探る「グローバル・ヒストリー」を学ぶ意義はあります
そこで「グローバルヒストリー」と「ワールドヒストリー」の行き来を自在にできるようにし、日本からみた世界、世界からみた日本を学ぶこと!
まさに二刀流を目指しましょう
近未来、国民国家の国境の壁が溶け、同時に地球上に生きるグローバル市民になる可能性にかけ、「グローバルヒストリー」の提案で、おおくりしました
ぜひ参考にしてみてくださいね